以前書いたFar Too Loud(ファー・トゥー・ラウド)の紹介記事で、4月23日(日)に初開催される「UPSHFT」についても軽く触れました。
公式サイト:https://www.cyclik.jp/upshft1
このイベントはハードテック × ベースミュージックを掲げる異色大型パーティーということで、多くの人にBPMに関係なくエレクトロハウスからハードテック、ベースミュージックまで幅広く楽しんでもらうという目論みがあります。
今までハードテックに馴染みがなかった人もこのイベントに参加してハードテックの魅力を分かってもらえるよう、まず基礎知識としてハードテックとはどういう音楽なのかを説明したいと思います!
目次
ハードテックの歴史
ハードテックは現在のスタイルになるまでに、アシッドテクノやブレイクビーツ・ジャングルの流れを伴うかなり長い歴史を持っています。
そもそもハードテックとはどんな音楽かと言うと、Wikipediaでは次のように説明しています。
ハードテックとは一般的にはBPM160~200のバスドラムの反復のビートの上に、ベースラインやメロディが乗るスタイルですが、数多くの音楽的な要素が含まれている為、1つの視点よりハードテック(Hardtek)/トライブ(TRIBE)のサウンドを表現することが困難である。
ユーロではすでに数万人規模のハードテックのパーティーが開催されており、華やかなEDMからドープなTrap/Bass系音楽やD’n’B、ハードコアの凶暴さも、Punk/Rockから民族音楽まですべて包容できるポテンシャルを持った音楽だと言えます!
このようにハードテックは時代ごとにそれぞれのスタイルを持ち進化し続けているので、簡単ではありますが時代ごとの変化を見ていきましょう。
まずヨーロッパにトライブやハードテックなどを普及させ、アンダーグラウンド・シーンで一時代を築いた集団、Spiral Tribeなくしては語れません。
Spiral Tribeとはいわゆるフリーテクノの歴史のサウンドシステム集団で、彼らに関する「アンダーグラウンド・レイヴの生き証人」という記事がとても分かりやすいです。
記事内には今回「UPSHFT」でもプレイするチェコ在住のアーティスト、Tanukichi氏の名前も出てきます。
このSpiral Tribeの一員であるJeff 23, Crystal Distortionが、96-98年頃に、テクノやハウスの33回転のレコードをあえて45回転にしてピッチをマイナス8にしたことにより(150-160 BPM), Freetekno(フリーテクノ)という音楽に進化しました。
ハードテックとかトライブコアとかトライブってなんやねんってツイートまだまだみかけるので図にしてみました。HARDTEK, HARDFLOOR, TRIBECORE, RAGGATEK, TEKCORE, PUMPCORE他 pic.twitter.com/mUxsgkrJRR
— くんさん (@Forgetek) January 22, 2014
ハードコアテクノシーンにおいては、2004年ごろにThe Speed Freak, Micropoint, Radium等によってFreeteknoの影響を受けたハードコアとしてFrenchcore(フレンチコア)のスタイルが定義され、当時活発だったIDM/エレクトロニカの影響も加わり様々な実験的な楽曲が生まれました。
このFreeteknoが2000年代後半に入り、Frenchcore, ハードコア・テクノと融合しさらにBPMが上がり、EDM, Dubstepシーンの影響も受けつつビッグパーティーへの進出が始まり現在のBillx, Floxytek等のスタイルに至ります。
要はハードテックも色んな音を取り込んでいき、より踊りやすい音へと進化していったのです。
また様々な他ジャンルの影響を受けたことでハードテックのサブジャンルがたくさん生まれました。
そのなかでも有名なものを以下に紹介します。
Happy Tekcore(ハッピー・テックコア)
Happy Hardcore(ハッピー・ハードコア)やスペイン発祥の哀愁を感じさせる旋律のトラックが大部分を占めるダンスミュージック、Makina(マキナ)の影響で生まれたジャンルで、Happy Hardcore + Hardtechnoといった感じ。
今回来日するハードテック・ハッピーテックコアをひっさげ全世界を飛び回るフランス出身のDJ、Mat Weasel(マット・ウィーゼル)や彼が結成したWeasel Busters Tribeもこの一員でした。
Pumpcore(パンプコア)
EDMやDubstep(ダブステップ)の影響で生まれたジャンルで、迫力のあるキックとベースがメインの音が特徴。
Reverse Connection CrewやTeklicitの一部Billx, そして今回来日するHARDTEK X BASSMUSICをいち早く実践したパンプコア界の最重要人物でフランス出身のDJ、Alryk(アルリック)などが代表的なアーティストです。
Raggatek(ラガテック)
名前の通りレゲエ・ラガジャングルの影響で生まれたジャンルで、曲を聴いたら一目瞭然ですがハードテックとレゲエ両方の要素を含んでいます。
代表的なアーティストにVandalやMSD, Vinkaなどがいます。
2016年にフランスで行われたReggae Sun SkaでのVandalのセットなんかが分かりやすいです。
2007~2014年までのスタイル(中期)
まず、この時代のスタイルが分かる2つの動画を載せておきます。
いかがですか。サウンド、MVともにハードテックの精神性が分かりやすく、一言で言うととてつもなくアホでハッピーです!笑
Billxの“Power Juice”なんかは昔のスタイルですが、一度登場したサンプルをしつこく繰り返す、いきなり前後の流れと関係ないサンプルを挿入する事でむしろブチ上がる等、ハードテック的バイブスがかなり感じられます。
https://soundcloud.com/billx/power-juice
同じくBillxの“Fuck’em down”という曲に関しては、ザ・ハードテックといった感じです!
現在(2014年以降)のスタイル
現在のスタイルは基本BPMは四つ打ちで180-190とかなり速いです。
下の動画はフランスで開催されたハードテックレーベル、BeatFreak’z Records主催のラガテックパーティー「RAGGATEK IN YOUR FACE 3」のBILLXとALRYKによるセット動画なのですが、だいぶEDM寄りになりました。
今回の「UPSHFT」でのAlrykのプレイもこんな感じになるのではないかと思われます!
下はBillxとその仲間たちによる現在のスタイルのハードテック入門には必須のミックスです。
Apasheの“No Twerk”やProdigyの“Smack My Bitch Up”, Major Lazorの“Lean On”などのリミックスもあってかなり聴きやすく、トラックリストもあるので是非チェックしてみて下さい。
また2014年から始動したレジェンドユニット、Fant4stikの存在も外せません!
Fant4stikはハードテック創成期から活動しているFloxytek、その当時のハード目な音に特化していたチームTeklicitのBillx、今でもFreetekno系の音を続けているチームNarkotekのGuigoo、そしてチームWeasel bustersの一員でHAPPY TEKCOREの提唱者Mat Weaselの4人で構成されています。
彼らは過去にSkrillexやSteve Aoki, Zomboyとの共演も行っているビッグフェスを行脚するユニットです!
音的には低域がベースミュージックの領域まで拡張され、ビッグフェスで問題なくかけられる作りのシンプルな構成となっています。
2015年に来日も果たし大阪、名古屋、東京にて公演を行い、日本にも多くのハードテックファンを生み出しました!
https://twitter.com/Dustvoxx/status/534718807105740801
ちなみにFant4stikのメンバーであるGuigooが運営する「Undergroundtekno」はじめiTunesやBeatportから、多くのハードテックのレコード、mp3を購入することができます。
「お勧めハードテック音源まとめ」という記事では、日本を代表するハードテックプロデューサーのひとり、@Dustvoxxさんによる楽曲の詳しい解説も入っていて面白いです!
ほかにはAlryk, FloxytekのSoundCloudでは、Kill The Noise, Major Lazor, Zomboy, Dillon Francisなどのクオリティの高いリミックスが公開されており、ハードテック初心者でも楽しめる内容となっています。
このあたりの違法リミックス・ブートレグのようなものをこっそりレコードオンリーで発売してしまうのもハードテックらしいです!笑
Far Too Loudとの意外な繋がり
「UPSHIFT」で来日するFar Too LoudとAlryk、そしてMat Weaselの3人は実は以前から繋がりがあったんです!
今回来日するAlrykが提唱したハードテックのスタイル、Pumpcoreについては、前述したようにElectro House, Dubstepシーンに影響を受けており、当時のエレクトロシーンの新鋭であったFar Too Loudもこの時期にYES CLUBというチェコのクラブにてMat Weaselらと親交が深かったそうです。
今回のFar Too Loudの来日も、Mat Weaselがボスのブッキングチーム、ElectrobookingにFar Too Loudが所属していることで実現したのだとか。
それを裏付ける面白い話として、Barely Aliveの“Rough And Rugged (Far Too Loud Remix)”にて、2:14からいきなり100 BPMの倍取りで四つ打ちのハードテックのような地帯が入り、日本でもちょっと話題になりました。
実際にFar Too Loudは、SoundCloudのコメント内にてFant4stikhのメンバーであるFloxytekに対して「ここを作っているとき、君らのことをちょっと考えていたよ。」と残しています。
「UPSHFT」の試み
「UPSHFT」は将来的なベースミュージックのひとつとしてのハードテックの位置づけとポテンシャルを考え、Far Too Loud, Mat Weaselの2人を、そしてビッグルーム向けになり若干マンネリ化してきた2017年現在のハードテックシーンに一石を投じるAlrykをゲストに招聘!
さらにアジアからはそれを迎え撃つべく、EDM, HARDTEKシーン両面に影響を受けその両方の面白さと可能性を引き出す韓国の新鋭トラックメーカーZekk、日本でハードテックシーンを推進するDJ Sharpnel, Dustvoxxを含め、日本に対してはハードテックのさらなる認知、ユーロ本国に対してはハードテックの次世代の可能性の提示を試みるものとなっています。
https://twitter.com/Dustvoxx/status/846681074210037760
また「UPSHFT」の主催者曰く、日本独自ともいえるハードコアシーンにも海外ダンスミュージックフェス的なアプローチを加え、両方の客層をうまく取り込み、BPMの遅い・速いにかかわらず楽しめるような新しいパーティーカラーを実現したい側面も持っているとのこと。
ユーロではすでに確立されたパーティーですが、今回日本では初の試みということでかなり注目度の高いパーティーとなりそうです!
おわりに
いかがでしたか。
ハードテックがどんな音楽なのか、またどのように時代とともに派生と進化を遂げていったのか少しは分かっていただけたでしょうか。
ハードテックは正確に分類することが難しい線引きが曖昧な音楽ではあるものの、裏を返せばこれからも無限の可能性を秘めた音楽だと言えます。
今回開催される「UPSHFT」に参加して、少しでも多くの人にダンスミュージックとしての初期衝動を強く感じるヴァイブスを秘めたハードテックの魅力を知っていただけたら幸いです!
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